経営者が知っておきたい賃金の法律について解説
1.はじめに
社員にとって働くことによって得られる賃金が、自分や家族の生活を支えています。そのため、事業主は、どのような事情があっても生活の糧である「賃金」を支払うように義務付けられています。
賃金とは「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」をいいます。
したがって、①事業主が労働者に支払うもの、②労働の対償であるもの、の2つの要件を満たすものは、名称の如何を問わず全て賃金となります。
2.賃金の決定方法について
賃金の額を具体的にいくらにするかは、事業主と労働者の合意で自由に決めることができます。しかし、以下の点について気をつけなければなりません。
①契約時に賃金に関する条件を明確にしておくこと、②賃金の支払いかたや割増賃金、最低賃金などに関する労基法・最低賃金法等で定められたルールを守ること、が必要です。
3.賃金形態の種類について
賃金形態には主に以下の6種類があります。会社の実情に合った形態を採用するようにします。
①月給制
月単位で基本給を定め、実際の出勤日数に関係なく毎月定額の給与を支払う。その期間中の欠勤日数に応じて減額されないものを「完全月給制」といいます。
②日給月給制
月単位で基本給を定め、遅刻や早退、欠勤があれば給与からその分を差し引く。「月給制」の一種です。
③日給制
1日単位で基本給を定め、基本給×勤務日を給与として支給する。パート、アルバイトなどで多く採用されています。
④時間給制
1時間単位で基本給を定め、基本給×労働時間を給与として支給する。パート、アルバイトなどで多く採用されています。
⑤年俸制
1年単位で賃金を定め、分割して毎月支給する。賞与が年俸に含まれている場合は、賞与月に多く振り分けることもあります。なお、年棒制も割増賃金の規定は適用されるので注意が必要です。
⑥出来高払制
労働の成果や出来高に応じて給与を決める方式で、「実績給制」「歩合給制」ともいいます。出来高が少ない時も労働時間に応じて一定額の賃金を保障しなければなりません。
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4.賃金支払いの5原則
賃金が全額確実に労働者に渡るように、支払われ方にも決まりがあり、次の5つの原則が定められています。
①通貨払いの原則
賃金は現金(強制通用力のある貨幣)で支払わなければならず、現物(会社の商品など)で払ってはいけません。
ただし、労働者の同意を得た場合は、銀行振込みなどの方法によることができます。また、労働協約(労働組合と使用者との書面による取り決め)で定めた場合は通貨ではなく現物支給をすることができます。
②直接払いの原則
賃金は、直接労働者本人に払わなければなりません。
賃金を仲介者などに一括して支払ったり、代理人に支払ったりすることはできません。これは、事業主と労働者との間に介在する者(職業仲介人や親方など)による中間搾取(ピンハネ)を防ぐためです。
また、未成年者だからといって親などが代わりに賃金を受け取ることもできません。
③全額払いの原則
賃金は全額残らず支払われなければなりません。
したがって「積立金」などの名目で強制的に賃金の一部を控除(天引き)して支払うことは禁止されています。
ただし、所得税や社会保険料など、法令で定められているものの控除は認められています。また、労働者の過半数で組織する労働組合、過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と労使協定を結んでいる場合は認められます。
④毎月払いの原則
賃金は、毎月1回以上支払わなければなりません。
賃金は、労働者にとって重要な生活の原資なので、賃金の支払いの間隔が不当に長くなると生活が不安定になってしまいます。そのため、少なくとも毎月1回以上支払わなければなりません。
⑤一定期日払いの原則
賃金は、一定の期日を定めて支払わなければなりません。
賃金が不定期に支払われることになると、労働者にとって生活設計が立てにくくなってしまいます。そのため、決まった周期で賃金が支払われるように定められています。
また、支払日は、例えば「毎月25日」などのように特定されていなければなりません。
5.さいごに
最後に、事業主にとっては影響のある賃金請求権の消滅時効期間の延長について説明をします。
賃金請求権の消滅時効期間は、従来は2年でしたが、原則として5年に延長されました。ただし、当分の間は経過措置として3年の延長にとどまることとされています。
これは、令和2年4月1日以降に支払われるすべての賃金が新たな消滅時効期間の対象となります。
上記のように現在消滅時効は1年延びたので、未払いの賃金がある事業主の方は、消滅時効について気を付ける必要があります。
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投稿者プロフィール
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木戸社会保険労務士事務所の三代目の石田厳志と申します。当事務所は、私の祖父の初代所長木戸琢磨が昭和44年に開業し、長年に渡って企業の発展と、そしてそこで働く従業員の方々の福祉の向上を目指し、多くの皆様に支えられて社会保険労務士業を行ってまいりました。
当事務所は『労働保険・社会保険の手続』『給与計算』『就業規則の作成・労働トラブルの相談』『役所の調査への対応』『障害年金の請求』等を主たる業務としており、経営者の困り事を解決するために、日々尽力しています。経営者の方々の身近で頼れる相談相手をモットーに、きめ細かくお客様目線で真摯に対応させていただきます。
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